今宵咲く花
日は大安
籤は大吉
恋の花咲く桜並木
これで踊らにゃ損ってもんだろ
いつものように都に繰り出して、見世物をしながら一日を楽しんでいた。
しかし常より活気があるなと思っていたら、隈八から今日は祭りがあるんだと教えて貰った。
そりゃあ楽しまなけりゃ損をするってものだと、慶次は今日の夜が白むまでは都に留まる事に決めた。
通う内にすっかり馴染みになってしまった茶屋に入り浸って、上手い団子と渋茶を啜る。
開いた蛇の目傘の下、慶次と一緒に夢吉もおごってもらった団子を嬉しそうに食んでいた。
これなら利やまつ姉ちゃんを誘っても良かったかなと思いつつ、出てくる前に仕掛けた悪戯を思い出す。
今まつに逢ったら、間違いなく雷が落ちるだろうことが予測され、ぶるりと背筋に戦慄が奔る。
綺麗な顔で怒るもんだから、尚怖いったらありゃしない。
利家一人を相手にするのはともかく、まつの相手は正直御免蒙りたい。
…いや、本当に怖いものだから。
だけど、この祭りの中で二人が寄り添い歩く様を眺めるのも悪くないと思う。
互いのことが本当に大切なんだと言う顔で見つめあう横顔を、慶次は幼い頃からずっと見てきた。
たまに母と子供の様に見えたりもする二人だが、お似合いだと慶次は思っていた。
恋してるって顔。
生き生きしてて、真っ直ぐな瞳。
それを見つける度に、ああ、最高だなと思う。
「……おっ」
団子の串を手元で遊ばせながら、慶次はふと寄り添って歩く男女を見つけた。
女ははんなりとした微笑を浮かべ、少し頬を紅潮させて、男はしっかりと女の肩を抱いている。
祭りの盛り上がりもあってか、こういう日はいつもよりも更に良い仲の二人を見かけることが増える。
些細な土産に喜ぶ女や、まだまだ初心なのか中々煮え切らない顔でどもりながら話す男とか。
ちなみに茶屋の中にもそういう者はいて、慶次はそれが顔見知りだったりすると、ちょっと揶揄ったりもするのだった。
慶次の前を駆けて行った男子と女子。
男子は女子の手を引っ張って奔っていて、女子は転びそうになりながら一所懸命ついていく。
小さいながらにその瞳に灯る想いを目敏く見つけて、慶次は笑った。
「いいねぇ、祭りに恋に、もっともっと燃えあがりゃ最高だ」
老いも若いも、皆恋してみればいい。
きっと何より幸せな瞬間だって気付く筈だ。
「さて、もう一回りするとすっか!」
食べた団子と茶の金額分だけきっちり置いて、慶次は立ち上がった。
腹も膨れて、夢吉も満足している。
あの茶屋の団子と茶は最高だ、と慶次は思っている。
想い子と来るならきっともっと美味く感じるに違いない。
道行く知り合いと言葉を交えながら、慶次は都の中心へと足を向けていった。
俄かに、都全体が慌しくなったように感じて、慶次は顔を上げた。
目の前には子供がいて相変わらず恋について話していたのだが、長い話に飽きたのか、夢吉と遊び始めてしまった。
そんな姿にさえ可愛いもんだなと思いつつ、笑んでいた所だったのだが。
祭りが盛り上がりつつあるのは判ったが、それにしては少々危なっかしい気がする。
こういう空気も都ではさして珍しいことではなく、慶次は直ぐにそれの正体を察する。
そしてそれによって自分が更に高揚しつつあるのを感じていた。
ばたばたと物騒なものを構えて奔っていく男を一人捕まえる。
「っと、なんだ慶ちゃんかい」
「おう。なぁ、何があったんだ?」
捕まえたのはやっぱり顔見知り。
いつもの愛称で呼んだ男に問うと、にぃっとそいつは笑って見せた。
「喧嘩よ、喧嘩! それもえれぇ強いお侍だ」
「侍? 侍が喧嘩してんのか?」
「ほれ、こないだ甲斐のなんとかってのが上洛したろ。其処んとこの若いのだってよ」
「なんだなんだ、都に来てまでそんなことしてんのか」
東国最強軍と名高い甲斐の武田軍が先日上洛を果たしたと、慶次も聞き及んでいた。
これで少しは乱世も落ち着いて、ゆっくり恋の話も出来るようになるのかね、なんて思っていたのは昨日の話。
戦に出たまま家に帰れなかった男もようやく夫と父に戻れるんだろうな、と。
しかし誰も彼もがそうでない事も判っている。
所帯を持たない連中だっている訳で、そういう者がちょっとした諍いを起こすのは珍しいことではない。
「仕方ねぇさ、今まで戦しか知らなかった連中だ。燻ってんだろよ」
「詰まんねえなぁ、そういうの」
「はは、慶ちゃんにすりゃあそうだろな」
手柄を立てるのに躍起になるのも良いけど。
慶次はそれより、良い人を見つけるのが良いと思っているから。
その気質をよく理解している男は笑って言うと、流れる人波に乗って祭りの中へと消えていった。
男の後姿を見送りながら、まぁ、そういう自分も喧嘩は嫌いじゃないのだけど、と一人ごちてみる。
隣の子供はまだ夢吉と遊んでいて、夢吉も色々芸を見せて楽しませている。
さっきの慶次と男の会話にはまるで興味がなかったようで、聞こえていたのかいないのか。
どちらでも良いのだけど、このまま喧嘩が盛り上がるなら、家に帰らせた方が良いだろうか。
この子もその辺の大人に負けず劣らず喧嘩っ早いのだが、侍相手じゃちょっと危ない。
大人しく家に帰ってくれるかなと思いつつ、慶次は子供の手から夢吉を摘み上げた。
「兄ちゃん、どうした?」
「なんか喧嘩やってるらしいんだ。面白そうだから見てくる」
「おれも行く!」
おっと、やっぱり。
きらきらと面白そうといわんばかりの表情で見上げて、子供は大きな声で言った。
これがいつもであれば危なくない所まで連れて行ってやるのだが、今日は少々派手になりそうだ。
「残念だけど、今日はもうおうち帰んな。また今度」
「えーっ……つまんないよ、今やってんなら今見たい!」
「今度は飴買ってやっから」
「ほんとか? 約束な!」
慶次の言葉にころっと明るい表情になって、子供は破るなよと強く言ってから慶次に背を向けた。
家路へと駆けていくその背中にひらひらと手を振った。
子供の姿が人波に埋もれて見えなくなると、さてと、と慶次は慌しい人の流れへ目を向けた。
定位置の肩に乗った夢吉は、まるで慶次に誘発されたようにそわそわと忙しない。
止まない祭囃子。
終わらない喧騒。
舞うのは桜の花弁なり。
わいわいと一番騒がしくなっている所に辿り着いたは良いが、肝心の中心部分は見えない。
慶次は長身で大柄なので、輪を作っている人々よりも頭の位置は高いのだが、それでも見通すことは出来なかった。
それほどにこの輪が大きい訳で、それはつまり、思っていた以上に喧嘩が盛り上がっているという事だ。
慶次は短い侘びを述べつつ、輪を作っている人々を押し退けながら中心に向かって進んだ。
中には慶次の背中を押して一発かましてやれ、なんて言い出す男もいる。
危ないだろうに老人なんかも輪の中にはいて、いや全く、老いも若いも喧嘩や恋には敏感らしい。
かくいう慶次もその一人な訳で、背中を押される度に気持ちが浮つくのが堪えられない。
そろそろ輪の中心に出るという所で、急に前にいた男が後退してきた。
しかし真後ろには慶次がいて、その後ろにも人だかりはあって、勿論まともに下がれる訳がない。
蛙を潰してしまったような声を上げて蹈鞴を踏んだその男を、慶次は片腕で受け止めた。
「なんだ、喜兵衛じゃねえか。情けねぇなぁ、どうしたよ」
「おっ、慶ちゃん! いいとこ来てくれた!」
「あ?」
受け止めた男は慶次の知り合い。
男はひっくり返った声を上げて、慶次の後ろにさっと隠れた。
「ちょいと押されてんだよ、慶ちゃん、見返してやれ!」
「なーに言ってんだ……腰入れて戦わねぇからそうなんだよ」
すっかり弱腰になっている男に苦笑しつつも、慶次は言われるまま、前へ出た。
その直後、前方から吹っ飛んできた男が慶次の真横を通過し、後ろにいた人の塊へ突っ込んでいった。
誰か怪我してねぇといいなぁ、などと思いながら吹っ飛んだ先をちらりと見遣り、再び前方に目を向けた。
其処にいたのは、紅蓮の若武者。
先日上洛した武田軍に属す、噂に名高い武将だった。
紅を基調しにした装いと、同じく紅い鉢巻に二槍。
色んな意味で目立ちそうなその装い(慶次も人のことは言えないが)に、すぐにその人物の名が頭に浮かんだ。
反面、思っていたよりも随分幼い顔立ちに少々面食らってもいたのだが。
可愛い顔立ちをしていると思う。
風に揺られてなびくのは鉢巻だけではなく、後髪も尻尾のように揺れていた。
頬が紅潮しているように見えるのは、祭りの熱に飲まれたか、それとも酒でも飲んだのだろうか。
あまり強そうな顔をしているようには見えないのだが。
女もそうだが、男も放っときそうにない顔だよなぁ。
元服なんてとうに済ましている筈だろうに、見た目はそれよりもずっと幼い。
体つきも筋肉はついているものの、どちらかと言えば細い方になるだろう。
「へぇ………」
特に訳もなく、そんな簡単にも似た言葉が漏れた。
それが聞こえたのだろうか。
ぎっ、とぎらついた眼が慶次へと向けられた。
やっぱり顔が赤い。
余裕のない表情だ。
「駄目だねぇ、そんな顔しちゃ。息詰まっちまうよ」
まるで毛を逆立てた猫のように、若武者はこちらをじっと睨みつけている。
向かってこなければ討つ気もないようだが、これでは迂闊に近付いて宥めることも出来ない。
周囲を見渡してみると気を失っている連中がごろごろと転がっている。
持っている二槍に血はついていなかったから、多分峰打ち、皆無事だろう。
全治何週間とか言う怪我は負っているかも知れないけれど。
どちらが先に仕掛けたんだか知らないが、一応、此処まで出張った手前、易々と引き下がる訳には行かない慶次である。
「折角都に来たんだから、祭りに喧嘩も良いけど、恋の一つも探しちゃどうだい?」
「なっっ………!!!」
途端、若武者の顔に血が上り、ぼん、と爆発を起こしたように見えた。
「綺麗な舞妓も一杯いるぜ。あんたの好みの女の子もどっかにいるんじゃないか?」
「こっ……こ、恋だの、そんな……そんな軟弱な考えは某には御座らんっ!!」
「おっと」
喚きながら若武者は槍を振るい、慶次に突進する。
朱槍でそれを防ぐと、突き出された槍の柄を掴んで引っ張った。
「…わ…と、とっ」
体勢を崩して、上体を支えきれずに若武者は地面に転がってしまった。
「ほらほら、余裕ないとそんな事になるだろ。恋の一つや二つもすりゃあ、もうちょっと………おっと!」
すぐさま起き上がるなり、若武者は槍を振るう。
半歩下がってそれを避けると、慶次は周りに下がるように言った。
すっかり頭に血が上ったらしい若武者は、やはり真っ赤な顔で慶次に突進してくる。
猪突猛進という言葉がよく似合うそれを、またしても朱槍で受け止めた。
沸騰して湯気が出るんじゃないかと思うほど、若武者の顔は赤くなっている。
恋という単語を聞いた瞬間にこうなったから、きっとまだ経験もないのだと慶次は勝手に予想した。
戦の中でずっと育ったような、戦の中に自分を見出しているような男だ。
それも悪くないだろうけれど、やっぱり一度ぐらいは誰かを好きになっても良いと思う。
誰かを大事に思うようになれば、もっと強くなれるだろうから。
でも、言っても無駄なんだろうなぁ。
強い意志を抱く瞳で睨む、まるで子供のような武将を眺めつつ、慶次は思う。
「勿体ないねぇ、可愛い顔してんのに」
「かっ……!!」
「笑ってみなよ、似合うから」
「ふざけるな!!」
「ふざけちゃいないよ」
がむしゃらに振るわれる槍を受け止めつつ、慶次は余裕を失わない。
それが益々若武者にとっては癪に障るようで、更に攻め手を増やしてきた。
十分にさばけていた手数が、徐々に慶次の手に負えなくなってきている。
連続で休む間もなく繰り返される突きに、周囲で見守る町人達も息を飲んでいる。
あの甲斐の虎に仕える鬼だ、これぐらいの実力を持っていても疑問はない。
だけど、やっぱりその表情には余裕がない。
「怒った顔もそこそこ良いけど、そんなじゃ眉間に皺が出来るぜ」
「ぬ…! さっきから、ごちゃごちゃと……!」
「教えてやってるんだよ、あんたなんにも知らなさそうだからさ」
余裕がないから手数はあっても攻撃が短調で、避ける事は難しくなかった。
全て受け止めて裁くには、早過ぎるので少し無理が出てきたけど。
「良い顔してんだから。恋を知ったら、きっともっと良い顔になるよ」
「だからっ……そんな軟弱なっ」
「そう思ってる間は、まだまだちっこいねぇ」
「小さいと言うな!」
「や、身長の事言った訳じゃねぇんだけど」
頭半分程下にある、若武者の顔。
確かに身長も小さいのだろうが、今は別にそれについて言ったつもりはなかったのだが、
どうやら若武者は言葉をそのまま形にとって捕らえたようだ。
真っ直ぐだ。
言葉も刃も、瞳も、全部。
気持ち良いくらいに真っ直ぐだ。
これで戦しか知らないなんて、損だ。
「やれやれ……あんた、武田のだろ?」
「そうだ!」
「可哀想になぁ、お館様の教育が悪かったのかな」
「お館様を愚弄する者は、この真田幸村が赦さぬ!!」
再び突っ込んできた槍を、今回は避けようとも受け止めようともしなかった。
大丈夫、まかり間違っても慶次がやられる事はない。
町人を相手にしている時だって、誰一人として死んでいないし、危険になるような外傷もない。
慶次がそうやって構えも解いて突っ立っているものだから、若武者の顔色が一瞬蒼くなったのが見えた。
周囲の町人は判っているのかいないのか、声を上げて慶次を応援しているものもいれば、
この若武者の方に頑張れ、なんて声をかけている者までいた。
きっとこの状況に慣れていないのは、この若武者だけなのだろう。
それでも一度突き出した牙を引っ込めることは出来なかったのか、若武者がぎりっと唇を噛んだ。
振り上げた槍が虚空を切って慶次に向かって来る。
真っ直ぐだな、ほんとに。
真田、幸村。
覚えとこう。
「で、何が原因で喧嘩してたんだい?」
数刻前に言っていた茶屋に若武者――――幸村を案内する道程で、慶次は問うた。
幸村は終始膨れっ面になっていて、そうしていると幼い顔立ちが余計に幼く見える。
それでも槍を構えていた時とは、また違う表情をしていると慶次は思った。
喧嘩(にしては派手だし危なかったが)の結果は、引き分けと言うことになるのだろうか。
慶次が刃を収めたものだから、幸村も最後の一撃を寸止めにして終わりになった。
町人達からは歓声が上がり、慶次と幸村の腱等を湛える声まで上がっていた。
その時、普通は厭われるだろうと思っていたのだろう幸村は、目を白黒させて戸惑っていた。
暴れてすっきりしたところで、慶次は気を取り直して幸村を茶屋に誘った。
最初は渋面を見せていた幸村だったが、団子が美味いって評判なんだ、というと「行く!」とはっきりと言った。
言った後で誰かに叱られるとかぼやいていたが。
幸村は今日、初めて都見物に来たのだと言う。
昨日まではお舘様―――信玄公の周辺警備やら何やらで慌しかったらしい。
ようやく一段落が着いて直々に暇を貰ったので、共も付けずに出てきた。
そして一人で行くあても決めずにぶらぶらと歩いていたら、絡まれたんだと。
「だから、向こうが……」
「そりゃ判ってるけど、町人相手にあそこまでやるって事は、なんか無礼でもしたんじゃないのかい?」
慶次が言うと、幸村はうぅ、と口ごもってしまった。
血の気の多そうな若武者だが、何もしていない町人相手に手を上げることはまずないだろうと慶次は思う。
じっと幸村を見ていると、答えを催促されているとでも思ったのだろうか。
実際は、そうやって口ごもっても可愛い顔してるなぁ、なんてものだったったりしたのだが。
「あ…あの男が……」
「誰だ?」
「知らぬ!」
「見かけ教えてくれりゃいいよ。知り合いかも知んねーし」
「……頬と肩に刺青のある男でござる……」
忌々しそうに告げられた特徴に、慶次の頭にすぐ一人の人物が思い浮かぶ。
賭博好きのあの男だ、多分。
彼の良くいえば開けっぴろげな所は、時として人の神経を無作為に逆なでしてしまう事があるようだ。
そんなに悪い奴じゃあないんだけどなと思いつつ、慶次は其処から先の答えを促した。
「で、そいつがどうしたって?」
「…わ…私の………」
打ち合っていた時と一人称が違う。
暢気にそんな所に気付きつつ、慶次は俯いてしまった幸村の顔を覗き込もうと腰を折る。
幸村は、耳まで真っ赤になっていた。
「…………尻を触りおった……………」
………はぁ。
そりゃまぁ、また無礼なことを。
無礼と言うか、失礼と言うか、そりゃぶっ飛ばされて当たり前だ。
下手をすれば首が飛んでいたのではないだろうか。
女でもないのにそんな事をされるなんて、この若武者が沸騰したような顔で怒り出したのも無理はない。
「挙句、…か、形がどうのと…あれこれ文句をつけて……」
「…そりゃ、災難だったな、お前…」
知り合いの刺青男に対する同情など、今回は欠片も浮かんでこない慶次である。
無節操にも程があるんじゃないかと、今度逢ったら言っておこう、覚えていたらだけど。
恥ずかしいことをされた上、聞かれたからとは言え自分の口でそれを他人に告げる羽目になろうとは。
幸村が真っ赤になって口を噤んでいたのも無理はなかったかと、慶次は今になって思う。
最初に見た時に真っ赤になっていた理由もこれで判明した。
折角の都見物にそれは悪いことをしたかも知れない。
敬愛する主の上洛を果たし、きっと今は嬉しさで一杯だったのだろうに。
「それならあんたが怒るのも無理ねぇや。ちょっと派手に暴れ過ぎたかも知れないけど」
「そ、それは…その……すみませぬ……」
「良いって。最初に手出したのはこっちなんだろ」
慶次の言葉に幾らか安心したように、幸村はほっと息を吐いた。
「で、お詫びといっちゃなんだけど、団子は俺が奢ってやるよ」
「誠か!?」
今度はぱっと破願して顔を上げる。
頬の赤みはまだ着えないけれど、それとも元々紅潮しやすいのだろうか。
きらきらと輝く瞳は、まるで幼子のそれと大差ない。
ついさっきまでの膨れ面より何より、幼い感じのするその表情。
団子を食ったら益々子供に見えてしまう気がして、慶次は笑った。
幸村はその笑いをどう取ったのか判らないが、一緒になって笑顔になる。
「都の事なら、大体俺は知ってるからさ。だから、また遊びに来いよ」
「そうさせて頂きます!」
「美味い餡蜜屋も知ってんだ。そうだ、一度は吉原の方にも行くかい?」
「よしわ………???」
吉原、という単語に、幸村はきょとんとした顔をして見せた。
吉原。
花街、色町の事だ。
それを知らないとは、一体どういう環境で育ってきたのやら。
慶次のように奔放ではないだろうけれど、年頃なら一度は興味を持つものではないだろうか。
しかし幸村の表情は本当に知らない、というものだった。
耐え切れずに、慶次は今度こそ声を上げて笑い出した。
「いいねぇ、あんた! そんなら、今度から俺が全部教えてやるよ!」
「は? な、何がですか?」
「一から十まで、手取り足取り。損はさせねぇよ」
「だから、何が……」
往来で声を上げて高らかに笑う慶次を、道行く人が振り返ってみている。
けれどもああなんだ慶ちゃんか、と言いながらまた歩を進めていった。
ただ幸村だけが笑う慶次についていくことが出来ず、おろおろとした表情で佇んでいる。
そんな幸村の頭を、慶次は少し乱暴にくしゃっと撫でて。
祭りに喧嘩に、恋の花。
蕾が綻ぶまでには、まだ少し時間がかかりますようで。
ツンデレっ子を書いたのは、ひょっとしたら始めてかも知れません(基本がぽけーだから…)
ってか、これってツンデレか……?
ゲームのストーリーのツンデレ幸村はまだ見てません。
バトルシーンは書いてて楽しかったです。
イメージは京都喧嘩祭り。