紅と
蒼
紅蓮と
蒼穹
焔と
雷
ぜぃ、ぜぃ、と。
喉の奥が酷く乾く。
飢えている。
飢えている。
飢えている?
違う。
これは、満たされている。
目の前に立ちはだかった紅蓮に、政宗は沸きあがる衝動を抑えることが出来ない。
焔を纏った敵軍の戦神は、真っ直ぐに刃を向けて来る。
天下統一を目指して、奥州を後にしたのはどれ程前の事だっただろうか。
小田原の北条を落としたのは、一月ほど前の事だったか。
もっと前の出来事のようにも思うし、まだほんの数日前のことのようにも思う。
記憶が上手く浮上してくれないのは、高揚した己の感情の所為であろう。
それ以外に何が原因となると言えば、残るはただ一つしかない。
東国最強と呼ばれた武田軍に戦を仕掛けたのは、こちらの方だ。
長年の因縁だと言う越後の上杉軍に奇襲に向かっていたのを、横から割り込んでやった。
この乱世、卑怯だなんだと言われても通用する事はない。
一瞬でも油断すれば、全て霞となって消える時代だ。
横槍を入れたにも関わらず、武田軍の体制の立て直しは早かった。
騎馬隊の数は今回少なかったが、それでも武将一人一人の力はかなりのものである。
それらを蹴散らしながら、政宗は誰よりも早く敵陣に突入して行った。
後で片倉辺りから小言があるだろうが、今はそれよりも、目的があった。
目的。
それは、紅蓮。
急な山道を一気に下った先に、それは在った。
戦場に立つ男としては、細い身体。
それでも鍛え上げられた肉体に、無駄はなかった。
緋色の衣を身に纏い、紅い鉢巻をした、明るい髪の色の男。
いや、男と言うには、顔立ちが少々幼い気がした。
この男が自信よりも年下であると、政宗は後に耳にする。
彼の名は、よく知っていた。
奥州くんだりから出て来たのは、ひとえにこの男に逢うのが目的だったと行っても間違いではない。
天下統一も勿論、同様に狙っているが、それとは別に一つ。
政宗には、何年も前から抱いている飢餓感があった。
始め、刃を交えていれば癒されたそれは、日が経つごとに渇きを広げていった。
最初は水辺が少し干上がった程度だった。
一日でも雨が降れば満たされた筈だったのに、徐々に物足りなくなって行き、
気付いた時には、奥州筆頭という四文字と共に、退屈と言う言葉が付き纏うようになっていた。
刃を交えていても、足りないもの。
それは、熱だ。
体中を駆け巡る熱が、いつの間にか冷めている事に政宗は気付いた。
何度温度を上げても、一時の瞬間のうちに一気にそれは冷えていってしまう。
結果。
“もの足りない”
奥州筆頭。
独眼竜。
竜の餓えは、半端なものでは満たされない。
「あんた……やるな」
「見くびってもらっては困る」
斜面の下に政宗、上に紅の男。
「独眼竜殿とお見受け致す」
構えられたのは、緋色の二槍。
こいつが――――――そう、この男が。
「我が名は、真田源次郎幸村! 尋常に、勝負!!!」
紅蓮の鬼―――――真田幸村!
真正面から突進してきた槍を、政宗は六爪で受け止めた。
嘗て見た事もないであろう構えに、幸村の目が一瞬、見開かれる。
近くで見ると、思っていたよりも幼い上に、中世的な顔立ちをしている。
女が放って置かない顔だ。
六爪で槍を掴み取ったまま、政宗は幸村の顎を蹴り上げる。
しかし当たるよりも一瞬早く、幸村は身体を仰け反らせてそれを避ける。
不安定な体勢となったにも関わらず、幸村は手を捻って槍の持ち手を変えた。
そのまま力任せに内側に引っ張り、強引に六爪を振り解いた。
一合目から相手の力量が計り知れる。
一撃の重みはさして感じられなかったが、素早い。
それでも、繰り出される連撃を、政宗は裁いていく。
防ぐでも、攻めるでもなく。
まるで舞うようにして、踊るようにして。
“武”は“舞”。
不意に、そんな言葉を思い出す。
「今日はとんだpartyだぜ!」
こんなにも。
こんなにも熱くなるとは思わなかった。
名ばかりの武将は、幾つも討ち取ってきた。
中には奇策とも言える手段を持つ者もいたが。
それでも、此処に来るまでに、此処まで熱くさせてくれた者はいない。
浮かれるなと言う方が無理な話だ。
真正面から突っ込んでくる。
わざわざ名乗って、勝負しろと言う。
この敵味方入り乱れた現状で、それでも失われないこの焔。
これは全力で以て相手をしなければ、失礼と言うものだ。
振り上げられた槍が、焔を纏う。
この紅蓮が向かって来る全ての敵を蹴散らしていくのだ。
まるで舞うように。
この男の戦場は、いつでも紅いのだろう。
人の傷口から流れる紅とは違う、揺らぎ照らし出す緋色。
東国最強の赤備えの中、一際目立つ紅蓮の色。
ほぼ二人同時に、地を蹴った。
ぶつかったのは、蹴った場所から丁度中央だ。
刃がぶつかり合った中心から、ごうと風が巻き起こる。
それは刃の風圧なのか、はたまた間に逆巻く圧し合う力か。
ぎぎ、と刃が擦れ合う音を立てた。
力で押せば、恐らくこちらが勝つだろう。
何処まで保てるか、やって見ようか。
そんな遊び心が浮かんでくるのも、気分が酷く高揚しているからだ。
片手で槍を払うと、踏み込んで自由になった方で刃を横に薙ぐ。
幸村はしゃがんでそれを避けると、政宗の視界端――下の方から一気に槍を振り上げた。
僅かに身をよじる事でそれをかわすと、幸村も一時距離を取った。
政宗はもう一度踏み込む。
今度はただ踏み込むだけでなく、踏み台にして身体のバネを伸ばした。
離れた筈の距離が、零に近付く。
幸村は二槍を十字に構え、相違なくその中心で刀の切っ先を受けた。
僅かでもずれてしまえば、串刺しだ。
幸村が十字を上に振り上げ、政宗を弾き飛ばす。
幸村の右手が、赤く光る。
「千両花火!!!!」
本能で身体が動いた。
刀を縦に構えて、防御する。
しかし刀に触れた部分が、破裂した。
いや、爆発したのだ。
名の通り、花火だ。
圧縮された火薬が、一気に火花を散らして消える。
灼かれた部分が、熱い。
痛いのではない。
熱い。
火傷だから、それだけではなかった。
見れば、幸村の目は瞳孔が開き、真っ直ぐに政宗を見据えていた。
「そうか………」
クク、と喉の奥で笑いが漏れる。
何故こんなにも、熱くなるのか。
何故こんなにも、熱くされるのか。
単純な答えだ。
「あんたも、俺と同じか」
餓え。
乾き。
満たされない、熱。
それが。
酔う程の、
熱。
この限りで終わらせるには、余りにも勿体無い。
政宗対幸村、川中島謀略戦です。
普通にライバルみたいな感じ。
そしていつかは、類は友を呼ぶ(笑)
ちなみに私は佐助を倒してから、幸のとこに行きました。