君が笑う









いつものように。

いつもの事のように。














……だって、見たいから。


















































いつものように甘味屋に寄って、主の好きな団子を買う。

此処の店主には、すっかり顔を覚えられてしまった。
甘いものが得意でない自分が、だ。
その原因はなんであると言えば、己の主以外に他ならない。



女子供でもないのに、甘いものが好きな主、真田幸村。
甲斐で有名な甘味屋の商品の殆どの味を、彼は知っている。
ちなみに値段を知っているのは、佐助だったりする。






「……今日はこれぐらいでいいだろ……」






これぐらい、と言っては見るけれど。
両手で抱えた袋は、意外と重い。

中身は饅頭が五個と、串団子が三本、ついでに甘酒の入った竹筒が一本。
甘ったるいものばかりが入っていて、それを全て片付けるのは佐助ではない。
いつか糖尿になっちまうんじゃないかと思いつつ、わざわざ先回りして買って行っている自分。


矛盾した行動だと判っているのだが、止められないのは何故だろう。
毎日のように甘いものを食べたがる子供のような主に、そろそろ止めろと呆れた風に言いながら、
欲しいと言い出す前に先回りして買出しして、買い置き分まで持って帰る。
甘いものを食べる主を見ながら、一体何度、胸焼けを起こした事だろう。

なんで俺はこの人に仕えてるんだ、そんな事を考えた事もあった。



……まぁ、応えはすぐに見付かってしまうのだけど。






今頃は、先の戦の報告を終えて、屋敷に帰っているだろう。
佐助が帰れば、戦神の姿は何処へやら、歳相応―――否、以下の顔で迎えるのだろう。





「……元服は済ませた筈だよなぁ、あのお人は」






佐助と幸村は、四つ歳の差がある。
今自分が二十二であるから、彼は今年で十八。
元服するのは十五だ、もう三年前の話になる。

で、あるにも、関わらず、だ。






「何処で切り替わるんだか」





戦場では日の本一の兵であると呼ばれているのに、日常生活は面影もない。
槍の鍛錬の時は確かに近付き難い感もあるのだが、それ以外はさっぱりであった。

何をしている時も、落ち着きがない。
たまには書でも読んでみろと思うのだが、想像してみると、これが中々に似合わなかったりする。
元気印がそのまま形になったような人物なのだから、当然とも思える。


それはそれで構わない。

ただ時々、疲れるのだ。
子守をしている自分からすれば。








そうこう考えているうちに、屋敷へと帰り着く。



少し離れた場所から、金属のぶつかり合う音が聞こえた。
どうやら真田隊の誰かと鍛錬をしている所らしい。

大方、鎌之助あたりだろう。
彼は鎖鎌の他に、槍術も心得ている。
二槍を振るう幸村にはいい相手だ。



邪魔をするのも悪いか。

けれども、佐助の足は自然と音の聞こえる方へと向けられていた。







「精が出るねぇ」







中庭に回ると、主と鎌之助が刃を交えていた。
交わった時に生じる金属音は軽く、どちらも本気でない事が判る。

じっとしていると身体が鈍ってしまうからと、果たしてどっちが始めた事なのか。




だが鎌之助が佐助の姿を捉えると、すっと一歩退いた。






「ご苦労さん、鎌之助」
「佐助!」





短い労いの言葉に鎌之助が頷いている間に、幸村の表情が切り替わる。
まるで夜叉のようだったというのに、もう既に牙は収められ、其処にあるのは幼い少年であった。





「全くよくやるねぇ。飽きねぇの?」
「何を言うか。日々の鍛錬こそが何よりも重要なのだ。鎌之助、今日はもういいぞ。付き合わせて済まぬな」





幸村の言葉に、鎌之助は小さく笑って首を横に振る。

この主の体力に付き合うのも大変であると、佐助はよく知っている。
鎌之助は呼吸は乱れていなかったが、汗が吹き出て止まらなくなっていた。





「旦那、無理させるなよ。旦那の体力について行けるのは伊佐ぐらいだって」
「疲れたのなら言えば良いと言っている。それで言わぬのだから、平気なのだろう?」
「………まぁ、いいけど」





恐らく、本気でないにしても、熱を帯び始めた主の気を損ねる訳には行かないと思ったのだろう。
こういう気遣いが当たり前にされるものとなっているからか、幸村はどうにも鈍感な感がある。
これは甘やかしている、という事になるのか。

水を浴びて来い、と言う幸村に、鎌之助は頷いて背を向ける。
足元が少々覚束なかったが、まさか倒れる事はないだろう。
これでも少数精鋭で構成されている真田隊の一人なのだ。
主の鍛錬の相手をするのも仕事の一つ、これでへばってしまっては勤まらない。



鎌之助の姿が見えなくなって、幸村は改めて佐助へと視線を向ける。
佐助も同じく幸村を見返して、両手に抱えていた袋を見せた。





「それは?」





首を傾げる幸村に袋を押し付けるようにして渡す。
落とさないように支えて、幸村は袋の中を覗き込んだ。

ぱっと明るくなる、その表情。






「旦那の好きなもんが安かったから買ってきた」
「流石は佐助、気が利くな!」





気が利く、と言うか。
最早、日常茶飯事となっているものだから。

癖になってしまったんだとは、言えない。






「はいはい、立ったままで喰わないの。そこ座りなさい」
「なんだ、また……子供扱いするな」
「じゃ大人らしくしてくれよ」






幸村の肩を押して、佐助は屋敷の外廊下へと向かう。

ようやく腰を落ち着けると、待ちきれないとばかりに饅頭を口に運ぶ。






「うむ! やはり運動の後は甘いものが一番だな!」
「…うちじゃそんなの旦那だけだよ」
「佐助、お前も食べろ。美味いぞ」






言って幸村は、まだ口をつけていない饅頭を佐助に差し出す。
人が喋っている間にさっさと食べ尽くしてしまう主にしては、珍しい事だ。

明日は雨か? なんて事を思いつつ。
見詰め返していれば、真っ直ぐに向けられる無邪気な瞳。





「……じゃ、貰う」





短い答えに、幸村は満足そうに頷いた。

饅頭を受け取って、頬張る。
餡の入ったものしか買って来なかったから、当然、甘い。



眉間に皺が寄りそうになった。


けれど。










「どうだ?」









返せる返事は、多分決まっていて。









「……いいんじゃないの」








本当は、苦手なのだけど。
顔に出さないようにして、頬張って。

ちらりと横目で見てみれば。
















嬉しそうに笑う、君がいる。































“佐幸で幸せなお題”一つ目「君が笑う」。
なんだかんだで、幸村に頭が上がらなかったりする佐助。

だって、笑顔が見たいから。