日向で眠る君が







今はただ、愛しくて。











































「よう」
「おっす」

「帰れ。」




「「酷っ!!!」」








冷たい一言で突き放す佐助に、政宗と元親は同時に言った。
しかし佐助としては、当然の一言を告げたまで。

手に手に土産を持ちながらやってきた、敵将であるはずの二人。
と言っても、四国の元親とは現在、同盟を結んでいる仲ではあるのだが、それとこれとは別だ。
奥州の政宗に至っては、何かと佐助の主と刃を交えているばかりであるというのに、
一体これはどういう事なのか。





「酷くない、帰れ」
「わざわざ奥州から馬で来たんだぜ。そりゃねーよ」
「こっちも海渡って来たんだからな。元が取れなきゃ意味ねぇよ」
「煩い。黙って帰れ、この眼帯組」
「…どっかのヤクザみたいな呼び方すんなよ」






佐助の言う通り、確かに二人とも眼帯をつけてはいるけれども、
十把一絡げに呼ばれるのはお互い気に入らないようだ。

…佐助には関係のない話だけれど。



二人が何を目当てで此処まで来たのか、佐助にはすぐ判った。
だがその目当てのものを易々と表に出すつもりはない。
人懐っこい性格で、警戒心がないので、懐刀である己がしっかりしなければいけない。
半分私情も入っているが、其処は知らぬ振りをした。

腰につけたままの大型手裏剣を取り出そうか、佐助は本気で悩んでいた。
己一人で二人に太刀打ちして敵うかどうか、微妙なところである。
戦忍とはいえ、敵大将を二人相手とは、少々辛い。


が、引き下がれないのも事実。







「こーやって土産まで持ってきてんだからさ」
「あ、これ饅頭な」
「砂糖菓子だ。貴重なんだから」
「此処で土産自慢するな」





それから、と。
佐助は二人が手に持っている一升瓶を見る。






「そりゃなんだい?」
「「酒」」
「帰れっ!!」







蹴りだす勢いで怒鳴るが、政宗も元親も動じない。
この程度で怖気づいては、一国の主として務まらないのだろうけど、今はさっさと立ち退いて欲しい。







「だって幸村、酔うとすげぇって聞いたからさ」
「何処で聞いた、何処でっ!」
「俺。同盟結ぶ時に宴会やってよぉ、飲ませたんだ」
「あんたは……旦那も旦那でっ…!」







俺のいないところで飲むなと言ってるのに!
微妙にずれた発言である事は、誰も指摘しない。



いつか定期健診に引っ掛かりそうだ。
そんな事を思いつつ、佐助は盛大に溜息を吐く。





「とにかく、帰れ」
「さっきからお前、それしか言ってねぇよな」
「飽きねぇか?」
「あんたらが帰れば、言わなくて済むんだけどね」


「そう言うな、佐助」






聞こえた声に、佐助は振り返る。
政宗と元親は、これでもかと言うほどに破顔した。








「幸村!」
「旦那…あんた、寝てたんじゃ」
「お前の声が大きいから、目が覚めてしまった」







久しぶりの休日だと、昼の刻近いこの時間まで眠っていた佐助の主・真田幸村。
まだ寝巻きのままの格好で、彼は玄関先に出て来てしまった。
いつもと違って、髪も下ろしたままで、中世的な雰囲気が滲み出ている。

子供のように惰眠を貪る主を起こすわけには行くまいと、佐助は玄関に立っていた訳だが、
来訪者に苛々しているうちに声は大きくなり、その所為で幸村は起き出してしまったようだ。
これでは本末転倒ではないかと頭を抱えると、眼帯組の二人が何が面白いのか、笑っている。
後で影当ての的にしてやる、などと物騒な事を考えている佐助だった。







「遠くからご足労して頂いたのだ、茶でも出さねば失礼だろう」
「さすが幸村。じゃ、邪魔するぜ」
「これ土産な」







家主の許可は得たからと、勝手知ったるなんとやら、二人は屋敷に上がる。






「旦那…あんたねぇ……」
「少しぐらい良いだろう。元親殿とは同盟だし」
「奥州の旦那は?」
「此処は戦場ではないのだから、そう固い事を言うな」






あんたがそんなだから……と言いたかった佐助だったが、結局口を噤んだ。

主が、あまりにも無邪気に笑うから。
























































「ほんっとによく食うよな、お前」






真田邸の縁側で、四人はお茶会と相成っていた。



一つ食べ終わった傍から、次の菓子に手を伸ばす幸村。
胸やけしそうだと呟いたのは、政宗だった。

元親はと言えば、幸村に巻けず劣らず。
甘いものが別段好きという訳ではないようだが、食べる量が凄い。
二人ともその栄養分を一体何処で消化しているのだろうか。

佐助は幸村の甘い物好きは今更だと、渋茶を啜る。





「幸村、これも食え」
「良いのでござるか?」
「これはあんまり好きじゃねぇんだよ。変わりにそっちの寄越せ」
「これですか?」





仲良く交換なんてしながら、饅頭や砂糖菓子を食べる幸村と元親。
政宗は甘いものは好きではないので、専ら煎餅を齧っていた。

大将に見付かったらなんと言われるか……佐助の心配事など、三人は何処吹く風だ。






「たまにはこんな日もいいな。なぁ、佐助」
「……旦那がそう言うんなら、いいんじゃないの」






素っ気無い返答であるにも関わらず、幸村は笑んだ。
返ってきた言葉があるだけでも、彼は嬉しいのだろう。
機嫌が悪いと、佐助は反応さえもしないから。






「そろそろ酒飲まねぇか?」
「旦那は駄目」
「良いではないか! 何故いつも私だけ駄目なのだ!?」
「固い事は言いっこなしだぜ、忍よ」






待ちきれなくなったか、浮かれた様子で酒瓶を出す元親だが、佐助は頑としている。
耳元で幸村が抗議を上げるが、そんな程度は慣れたもの。
渋茶を啜りながら、他の二人を睨み付ける。


どうあっても譲歩するつもりがないらしい佐助に、二人は顔を見合わせて肩を竦める。

無視して飲ませてもいいのだが、それでは今後が不利になる。
これからも此処に来るつもりであるなら、彼の機嫌を損ねるのは宜しくない。
最早幸村の保護者と化している忍を敵に廻すのは、厄介である。
何よりこの男は真田隊を束ねる者、その気になれば隊を率いて自分達を抹消しかねない。



今回は諦めるのが無難だと判断して、二人は酒を置いた。
政宗は露骨に残念がり、幸村は拗ねた顔をして縁側に寝転がってしまった。






「佐助はけちだ」
「あんたは酒癖悪いから駄目なんだよ。誰が世話すると思ってんの」
「佐助」
「……酔っ払いの世話ってのは疲れるんだからな……」






寝転がったままで佐助を見上げて告げる幸村は、なんとも無邪気な顔をしている。
これだから怒ろうと思っても、怒気を削がれてしまうのだ。
甘やかしている事になるのだろうかと思いつつ、佐助は茶を飲み干す。



不貞腐れて寝転がった幸村は、起きるつもりはないらしい。

政宗が面白がって、砂糖菓子を頭上でちらつかせる。
すると雛鳥が餌を催促するように口を開ける。
ぽいっと其処に菓子を放り込むと、ころころと口の中で転がした。


それを見た元親も、饅頭を小さく千切って、幸村の頭上に持っていく。
同じく口を開けたのを見て、食べさせてやった。





「旦那、行儀悪いから起きなさい」
「嫌だ」





小さな子供の我侭のように、一刀両断する幸村。
眼帯の二人組は、そんな幸村の態度が可笑しくて堪らないらしい。

戦場に立てば誰よりも勇ましく先陣を切るというのに、家に帰ればこの駄々っ子振り。
甘い菓子一つで喜んで、自分の要望を却下されたからと寝転がって不貞腐れる。
二重人格ではないのかと思うほどの変貌振りだが、どっちも素なので、なお性質が悪い。

仕舞いには佐助に向かってべぇ、と舌を出すものだから。





「保護者が板についてんなぁ、忍」
「……嬉しくねーよ」
「いっそのこと、忍やめて主夫にでもなったらどうだ?」
「Ah……それだと、やってる事は一緒じゃねぇか?」





幸村に餌(菓子)を食べさせながら、二人は笑う。
ふざけるなと言い返せない佐助は、そんな自分が悲しく思えた。




確かに、保護者みたいな事をしているけど。
朝起こしたり、髪を結ったりするのは、自分だけど。
無茶する主を何かと庇いに回るのは自分だけど。

思い返すと、余計に悲しい。
本当に忍として仕事にない事までしている気がする。


“気がする”ではなく、実際にそうなのだが。





「元親殿、抹茶の饅頭が欲しいです」
「おう、これか」
「幸村、こっちも食うか?」






すっかり敵将の二人に懐いてしまった幸村だが、佐助は今日はもう諦める事にした。
この主が自分の言う事を聞かないのは、今に始まった事ではないのだ。



と。
くぁ、と妙な声が聞こえた。





「なんだ、眠いのか? 幸村」





目元を擦る幸村に、元親が問う。
少しだけ、と小さな声で返答があった。





「俺たちが来るまで寝てたんだってな。寝過ぎじゃねぇか?」
「……旦那は休みの日はいつもこうだ」
「ふーん」





まるで猫が顔を洗うような仕草をする幸村。
政宗が頬を突くと、むー、などと意味を成さない言葉が漏れる。
一緒になって元親まで突きだす。

これは助けるべきかと思いつつ、佐助は無言で空になっていた湯飲みに茶を入れた。

























































気付けば、辺りは静かで。
寝息が一つ、聞こえてくる程度。

誰も菓子には手をつけなくなっていた。
最も饅頭はとっくになくなっていて、砂糖菓子はあと二個しか残っていない。
煎餅だけが大量に余っていて、茶はそれぞれの湯飲みに注いである分が最後。






静かだな、と。
元親が呟いて。

ああ、と。
政宗が返す。






三人の真ん中で、眠っている子猫。

虎は成長すると勇ましいが、幼い時分ではまだまだ可愛いものだ。
爪だって尖っていても知れたものだし、牙もまだない。
幸村は、まさにそれだ。






「俺、寝るわ」
「んじゃ俺も」






幸村が眠ってしまい、退屈になったのだろう。
政宗が縁側に寝転がると、元親もそれに便乗した。

ほどなく聞こえてきた、安定した呼吸。
さすがに奥州と四国から来るのは疲れたのだろうか。
だったら来なきゃいいのに、と佐助は思う。




……疲れと言えば、自分も結構疲れている。
遠出の偵察から帰って来れたのは昨日の晩で、今日は招かざる客が二人。
主の警戒心がないものだから、代わりに己が気疲れする羽目になる。

でも、今は敵将であるはずの眼帯二人組は本気で眠ってしまっているようだし。
頭目がいなくても、館の警護は真田隊の面々が引き受けていてくれるだろう。


























寝転がって見上げた空は、





平和なものだった。







































弐万打有難うございます!
今回はサイトのメインメンバーで、幸総受。
佐助が出張ってます、相変わらず……

ほのぼのギャグ……?